ジェンダー問題の多様性と医師としてのジレンマ

私は、慈恵医大晴海トリトンクリニックで所長を務める65歳の医師です。先日、50歳の貧血のために受診された女性の患者さんのことをお話しします。

 

前日、他院で健康診断を受けて、赤血球が正常の半分しかないので、すぐに医療機関に受診するように指示されて、当院を受診されたとのことです。

検査結果からは、ヘモグロビン(血色素)が7.4g/dlで、血球が正常の半分程度でした。赤血球のサイズが小さく、出血が原因の貧血であることは容易に診断できました。50歳・女性の貧血の原因の多くは月経過多です。この方には子宮筋腫があり、子宮筋腫→月経過多→貧血である可能性が高いと思われます。しかしながら、出血が原因の貧血としては、胃潰瘍・胃癌や大腸癌も鑑別診断に上がります。ご本人によると生理も便も異常がないとのことでした。しかし、消化管出血はリスクが高いので便に血が混じっているかを診断する必要があります。

20年前ならば、診察室で直腸診を行うのが、奨められていたと思います。直腸診は医師がゴム手袋をはめて肛門から人差し指を挿入し、直腸の壁の様子や便に血が混じっていないかを調べる検査です。

しかし、現在はそのような検査を行うかは患者さんに説明する必要がありますし、説明する場合も看護師が同席しないと患者さんに不快な思いをさせてしまうと思われます。

患者さんに説明すると、「直腸診はやらなくて結構です。」とのことでした。

症状がなかったので、便をご自分てとっていただき、週明けの月曜日に結果を確認することになりました。

すると、便の検査で潜血反応が強陽性でした。幸い貧血は進行しませんでしたが、消化管の検査の予約を進めました。

しかし、同様の患者さんが来院してもご本人が希望しなければ、私は今後も直腸診は行わないと思います。

医師は医療の水準を維持する立場ですが、ジェンダー問題の多様性に医師としてのジレンマを感じることがあります。

 

2023年12月12日時点の医師横山啓太郎個人の意見です。