医療のパラダイムシフト

私は1985年に大学を卒業し、医師になったので今年で37年医療に携わっていることになります。その間、大きく進歩した医療分野もあれば、ほとんど変わらない医療分野もあります。

それは医療の進歩といえば、医療技術の進歩を想像することが多いかと思いますが、本日は医師―患者の関係のシフトについてお話ししたいと思います。

私が医師になった1985年から1990年中盤までは癌の患者さん本人に癌の告知をすることは殆どありませんでした。癌の患者さんには前癌状態であるという説明のもと家族と命を助けることを主眼とした医療がなされました。患者さん本人が真実を伝えられていないので、主治医以外の医師が患者さんや家族と接する機会が少なく、当直体制はあったものの夜間でも呼び出されて主治医が説明するというのが通例でした。若い医師は夜間休日でも患者さんに接していたので、医師の過労死が問題になった時代です。

2000年前後からは患者さんに病気を告知するのが一般的になり、均一な治療が求められるようになりました。インターネットの普及も大きいのですが医療はガイドラインをもとに行われるようになりました。

1985年から1990年中盤までは医師は患者さんを小さ子どものように愛情を持って診ていたと思います。しかし、均一化された治療では、医師―患者間に距離ができたのも事実ですし、医師と距離を置くことを好む患者さんも出てきました。

それではこれからの医療はどうなっていくのでしょうか?今のガイドラインを基盤とした医療は人工知能でも診断可能です。

一方でコロナウィルス感染症の経験で皆さんお分かりかと思いますが、ガイドラインを基盤とした医療が必ずしも正しくないのです。

これからの医療は、ガイドラインを基盤とした医療を医師と患者さんが一緒に評価していく治療です。医療の中心が完全に患者サイドにシフトしていきます。

 患者さんにも健康リテラシーを向上させることが求められます。

2022年6月8日時点の医師横山啓太郎個人の意見です。