主治医を変えて欲しいと言われたこと

患者さんにとって、主治医の先生に「主治医を変えて欲しい」ということは大変なことだと思いますが、主治医にとっても「主治医を変えて欲しい」と言われることで大きなショックを受けることがあります。

 

私の患者さんで84歳の高血圧で20年通われた患者さんがいます。腎臓・高血圧内科の疾患は高血圧だけですが、20年の間に肺炎になったり、脳梗塞になったり、大腸癌になったりしました。

娘さんも一緒に拝見していて家族全体の医療相談にのっていました。肺炎、脳梗塞、大腸癌で入院した時も、患者さんの不安が強く何度も病棟に足を運び力づけました。

 

その患者さんを先月、外来で拝見した1週間後のことです。看護師が近寄ってきて、「先週○○さんに何か言われました?」と聞かれました。何もなかったので「特別なことはなかったよ。」と答えると、その看護師は「○○さんの娘さんが、受付の人に主治医を変えて欲しい。と訴えたそうです。」と言ってきました。驚いて「どうしてなんだろう?」と聞き返すと「4年前の大腸がんの見落としをしたのに知らんぷりをしている。このことは横山先生には内緒にして下さい」と言っていたそうです。

 

看護師も驚いて、4年前のカルテを取り寄せて調べてみたそうです。看護師は「先生は、食欲がないと訴えたその日にCTを取り、消化器内科に依頼して大腸がんの手術に進んでいました。その後も再発なく、今までの外来の様子も穏やかで、主治医交代の訴えは私たちも驚いています。」と言っていました。

 

その後、私もカルテを調べて、医学的に私に否がないことを確認しました。しかし、大腸がんの術後に抗がん剤で体調が悪くなった時に、その中止を提案し、外来の度に思い出しては患者さんと抗がん剤をやめて元気になったことを喜んでいたことを思い出しました。

御家族はそのことも「見逃しているくせに・・・」と思われている気もしました。「ご高齢なので2カ月に1度の通院でどうでしょう?」と患者さんに、こちらが提案しても「先生の所へ毎月来たいです。」言っていました。

きっと80歳を超えた母親の外来の様子は家族には、伝わっていなかったのでしょう。

いわれのない評価を受けることは、医者も精神的にダメージを受けます。

 

しかし、その時、別の考えが浮かんできました。

  • もし医学的に正しい説明をしても、家族は術後の疑念を払しょくすることは出来ないかもしれない。
  • 患者さん自身が外来の様子を家族に伝えることが出来なければ、患者さん自身も、家族と口論になり辛いだろう。
  • きっとこれは私の影響の外側にあることだろう。

 

そして、昨日、患者さんと家族に曜日の違う担当の先生を紹介して「いつでも困ったら拝見しますね。」と伝えました。

この対応は、看護師さんが私を信頼しくれたことと、アドラー心理学により私が選んだものでした。

 

※2020年10月28日時点の医師横山啓太郎個人の意見です。