スマートフォンでの毛細血管の測定

私は、老化を「外的な負荷を処理できなくなること。柔軟性を失うこと。」と定義しています。

塩が処理できないことが高血圧に、糖が処理できないことが糖尿病に、脂質を処理できないことが脂質異常症に繋がります。この柔軟性は何によって規定されているのでしょうか?

それは、処理する細胞の機能と糖や脂質をその細胞に運ぶ毛細血管量に規定されると考えています。実はその細胞自体も毛細血管によって栄養を受けて機能するので、毛細血管量が低下することは体の柔軟性を失うことと直結します。毛細血管量の減少は、臓器を選ぶことはありません。脳の血管、心臓の血管、腎臓の血管、あるいは皮膚の血管も同様に減少していきます。ですから、脳の老化、心臓の老化、腎臓の老化、皮膚の老化も同様に起こっていくのです。高血圧の人は腎臓や心臓の毛細血管が少ないこと、認知症の人が脳の毛細血管が少ないことが解っています。皮膚の毛細血管が少なく皺多い人はやはり、老化が進んでいると感じることが多いのではないでしょうか?毛細血管密度の低下と高血圧や糖尿病が関連しているということが明らかになっています(Alfons J.H.M. Houben J Am Soc Nephrol 28, 2017.)。

 

この毛細血管の密度の低下は、臓器毎に起こる若ではないので、皮膚の毛細血管の密度を測定することで、食後高血糖や寒冷負荷後の高血圧を診断できる可能性があります。

しかしながら、測定条件が厳しく、撮影に技術がいることからこの方法は広く社会に浸透するにはハードルが高いと思われていました。

一方、スマートフォンでの毛細血管の測定は広く用いられる可能性は期待できるものの、その精度、あるいは従来の統計方法の限界により医学的な信頼性を得ることは難しいと考えられていました。

しかし、最近Nature Medに注目すべき論文が掲載されました。スマートフォンの技術を介して皮膚の状態を確認したり、診断を助けたりする機械学習モデルを、Y Liuたちが開発しました。

5万3870人の糖尿病の患者を含む260万人分のPPG記録を用いて39層の畳み込みディープニューラルネットワーク(DNN)を鍛えあげ、スマートフォンの内蔵カメラで取得したPPGデータから糖尿病を検出できるようにしました。

このアルゴリズムは、2つの個別のデータセットから最大81%の正確さで糖尿病の患者を正しく識別できたと報告されています。

表紙のイラストは、その概念と機能を分かりやすく示したものである。この研究は、広く普及しているデバイスを活用することで、皮膚の状態についての高品質な情報へのユニバーサルアクセスを拡大する、つまり誰もがアクセスできる機会を広げると考えられ、また臨床業務へのデジタル手法の導入を加速することが、予想されます。本論文が表紙を飾ったことからも注目度の高さが窺えます(Nature Medicine VOL 26  October 2020 1576–1582)。

IoTの医療への浸透

アップルウォッチで生体データを把握できても医療の現場で用いられることはありません。医師がその精度に疑問を感じているからです。しかし、ウェアラベルデバイスビッグデーターをAIで解析していく手法はこの壁を超える可能性が期待できます。ディープニューラルネットワーク(DNN)により、精度が上がれば、その解析方法を問題視することが無くなってきます。その手法がNature Medという一流誌に掲載された意味合いは極めて大きいと考えられます。コロナにより、健康リテラシーを上げることと意味を知った国民は、新たな健康管理システムを求めるはずです。ウェアラベルデバイスビッグデーターとAIの組み合わせは、リモート診療だけでなくレストランやフィットネスクラブとの連携を持った健康推進街づくりにもつながるでしょう。

 

2022年3月30日時点の医師横山啓太郎個人の意見です。