血圧と「医療の物差し」

私は、血圧が今も医療の物差しであることに疑問を持っています。

自動車のエンジニアが車を動かして性能を見るのと異なり、人は、早朝・空腹時という24時間で5分程度しかないタイミングで安静という条件で、しかも100年以上前と同じ機器で血圧を測定しています。

医療を科学と呼ぶにはあまりにお粗末な臨床の実情です。

 

血圧は1733年 イギリスの生理学者Stephen Halesがウマの頚動脈にガラス管を挿入して 、その高さにより血圧値を認識したことが起源だと言われています。そして、1905年、ロシアの軍医ニコライ・コロトコフが、カフ(腕帯)で上腕の動脈を圧迫し、続いて減圧したときに生じる血管音(コロトコフ音)を聴診器で聴き取りながら血圧を測定していますが、この方法が現在行われている血圧測定法です。

 

測定法が確立されても治療薬がなければ、「医療の物差し」にはなりません。米国のルーズベルト大統領は、大統領になってから正常であった血圧がどんどん上昇し、1935年には136/78 mm Hg 、1937年には162/98 mm Hg、1941年には 188/105 mm Hg 、1944年に大統領に4選されたときは平均血圧は200mmHg以上でした。そしてヤルタ会議の時には血圧が260mmHgまで上昇し、脳出血で死亡しました(N Engl J Med, 1995 ; 332 : 1038〜1039)。ルーズベルトは「死ぬときは血圧が下がるので、血圧が高い分には問題ない。」と主張したそうです。

その後、血圧を下げる薬が開発され、製薬会社は多額の資金を投入し、臨床研究を行い、新しい薬剤の効果を証明してきました。そして血圧が「医療の物差し」になりました。

 

しかし繰り返しますが、100年以上前の測定法が、生体を評価するのに一番適しているのでしょうか?

自動車は馬力でその能力を測定していますが、勿論、馬を用いて測定するわけでなく日々測定方法は進歩していると思います。

 

また、もし血圧でなく脈拍に注目していたら、現在の生活習慣病の診療方法は全く変わっていました。

 

IoTが進んで、生体の測定方法が進歩することを私は望んでいます。

 

※2021年1月25日時点の医師横山啓太郎個人の意見です。