93歳の現役眼科医が閉院を決心した日

私に母は93歳の現役眼科医です。診療の判断力も低下していると思いますが、長年眼科をやっていたので、親子4代で通院されている患者さんもいらっしゃいます。

近くで眼科をやっている姉が心配して数年前から閉院するようにすすめていましたが「自分は大丈夫。やめたら退屈でやることがない。」といって働き続けました。100歳で通っているお爺さんの蕎麦屋さんに義兄が「診療もおぼつかなくなっている。」というと、そのお爺さんは「少しボケている方が可愛いよ。」と答えたそうです。

新型コロナ感染症の感染拡大もあり、私も閉院することを薦めましたが「私はコロナに罹らない。仕事辞めたら死んでしまう。」と言って診療を続けました。電車で1時間ぐらいかけて通っています。

ある時、母と信頼している看護師さんの話になりました。私は「その看護師さんが毎日家に来てくれたら辞められる?」と聞くと、母は「来てくれるはずないわ。」と言っていました。母も93歳なのでスタッフはいつ閉院しても不思議はないと考えていました。私は、ダメモトで、その看護婦さんに「母が辞めたら、毎日自宅の手伝いをしてくれますか?」と連絡しました。その看護婦さんは、その申し出を快諾しました。

母に「看護師さんが家に来てくれることになったよ。」と報告すると、母は声を出して泣きました。「そこまで、私のことを考えてくれたの?」と言っていました。私は、母が声を出して泣いたのを見たのは父が亡くなって以来2回目でした。

 

2021年1月20日、母は眼科を閉院しました。

今でも閉院を説得したことに迷いはありますが、幸せになって欲しいと思います。

内輪の話で恐縮です。

 

※2021年1月20日時点の医師横山啓太郎個人の意見です。