これまでの新型コロナウィルス感染症に関する横山的まとめ

緊急事態宣言が延長になりました。
現在、新型コロナウィルス感染症の情報は世の中で溢れ、毎日のように専門家という人がコメントしていますが、実際の所、未知のウィルスに、多くの視点で十分理解されている専門家はいないと思われます。

2月に奈良のバスの運転手が感染した時には、「水際でせき止められるかが正念場」と多くのコメンテーターが発言し、4月初めには「日本もイタリアやNYのようになるリスクが高い。」と異口同音でコメントしていました。

最も有能な専門家が集まっているWHOでさえ、多くの読み間違いをしているようにも思いますし、CDCがあり感染症には十分な備えがあると評されていたアメリカが悲惨な状況におかれています。

 本来感染症の研究者は細菌やウィルスの研究をしている人たちで、どの様にウィルスが広がっていくかに関しては専門家ではありませんし、どのように広がっていくかを予想するのは数学者であって、感染防御については専門家ではありません。そして、呼吸器の専門家は集中治療の専門家ではありません。

私も感染症専門家ではありませんが、医療の現場にいるものとしてこれまでの新型コロナウイルス感染症の状況をいくつかのテーマごとに自分なりに整理したいと思います。

 
(患者さんが新型コロナウィルス感染症にかかった状況とマスクの役割)
1.病院内
2.ライブハウス、卓球場、屋形船
3.クラブ
4.家庭内

新型コロナウイルスは、飛沫感染接触感染が感染経路であり、空気感染がないといわれていたのに、病院で院内感染が起きていることは医療者として恐怖感を覚えました。

しかし、患者さんと医療者がマスクさえしていれば、感染が防げること、重症肺炎患者さんで痰の吸引などが必要な場合はエアロゾル感染が起こっているのではないかという解釈に変わりました。
エアロゾル感染とは、空気中でウイルスと液滴が混じって形成され、吸入すると感染が生じる状態で飛沫感染と、空気感染の間に位置する感染の形態

ライブハウス、卓球場、屋形船でクラスターが起こったことで、3密と言われていますが、密閉された空間で大きな声を出すことが、エアロゾル感染を起こすことを想像させました。
また、大きな声を出せるぐらい元気な人が感染源になるということは、無症候感染者がウイルスをバラまくリスクを感じました。
最近になってジョギングの時にマスクをつけることが推奨されていますが、大きな呼吸は、感染を広げることと関連していると思われます。

私たちの慈恵医大晴海トリトンクリニックは銀座の近くにあり、クラブ関連の患者さんが、高頻度に新型コロナウイルスになることを実感しました。

必ずしもお客と密接に関係したスタッフでないことから、感染者が触れたソファーなどにウイルスが長くとどまることを実感しました。

アナウンサーの赤江さんもそうですが、感染者の家族は、感染防御していないと殆ど感染してしまうことも理解しました。

武漢のデータと日本の流行初期では、「5人に1人しか、他人に感染させない」と専門家委員会が発表しましたが、現在の感染力の高さは、ウイルスが変異したことが想起されました(若しくは、「5人に1人しか、他人に感染させない」とした武漢やクルーズ船でのデータ解析の観察期間が短すぎたことも否定できません。)。

それでも、繰り返しますが、密閉されていない空間で、感染者がマスクをつけていて自分がマスクをつけていれば感染しません(医療現場で痰の吸引など特殊な状況では別ですが、このことは安心して頂いて良いと思います)。
「マスクは自分を守るためでなく、人にうつさないため」という概念に変わりました。


(新型コロナウィルス感染症のウイルスの潜伏期と受診まで)
潜伏期は2-14日といわれていますが4-7日が多いといわれています。
ウイルスは増殖しないと症状が出ないので、感染者接触の数時間で症状が出ることはありません。
発熱4日間で受診と言われていましたので、受診時は既に感染後8-12日程度、発症後4日程度で受診されます。
従って、発表されるPCR陽性患者数が反映されるのは14日前くらいの感染状態となります。

当初、中国での流行では、武漢以外中国全土の致死率は1%と言われ、クルーズ船は高齢の感染者でしたが、欧米の致死率は10%に及ぶこともあり、ウイルスが変異し、毒性が上がっていることが議論されましたが、国立感染症研究所は遺伝子解析により、現在わが国で流行しているウイルスは中国のものではなく、変異した欧州からのウイルスであるという研究結果を報告しました(但し、4月26日の時点でクルーズ船では累計712名の感染者がいて、死亡者13名、退院患者649名となっています。

現時点の致死率は1.8%ですが、累計患者―死亡者―退院患者が50名もいます。この患者さんたちが重症化しているのであれば致死率は10%近くになることも否定できません)。


(新型コロナウィルス感染症の症状)
1.発熱、咳、頭痛が多く、倦怠感も伴う。咳は痰を伴わない空咳が多いです。
2.胸痛もあり。
3.当初、呼吸器症状がない患者さんもいましたが、入院後悪化し、直ぐに労作時の呼吸困難を訴えることが認められました。
4.下痢など腹部症状も半分近くに出ています。

※特に、以下の症状があったらコロナを疑います。
5.味覚と共に嗅覚異常は半数程度に認められます。
6.息切れ。多くの症状はインフルエンザと変わりませんが、一般的に息切れはインフルエンザでは起こりません。私のクリニックでは運動後の酸素飽和度で重症度を診断しています。
7.重症例では38℃以上の熱が長く続き、息切れが増強していきます。
8.新型コロナウイルス肺炎は肺全体を犯すので、労作時の息切れが出ると急速に症状が進むことが、新型コロナウイルス肺炎の特徴。
その時は救急車でも構わないので、直ぐに受診を。厚労省が発表した重症化を予見する13の症状も肺の酸素化に対する予備能様々な方向から評価したものです。労作時の息切れは重要な所見です。
9.クルーズ船のデータでも無症状の方の半数にCT上は肺炎があり、その患者さんの50%は肺炎症状を呈することになります。

当初の80%は軽症とのことでしたが、そのうちの4分の1以上はいずれ肺炎症状を呈するとのことですので、診断された方の40%程度は入院を考えるレベルではないでしょうか?
勿論、PCRが実施されていない不顕性感染者は現在の報告の10-100倍いると思われますので、PCRを実施していない感染者の中での重症化率はもっと低いことになります。


(診察予約とPCR検査を受けるまでの流れ)
1.かかりつけがある医があれば、かかりつけ医にない場合は保健所が窓口になる。
2.かかりつけ医の定義が不明で、1-2カ月に1度高血圧などで受診していればかかりつけ医となるが、風邪の度に1年に1度程度の受診は微妙です。
3.保健所のキャパシティは、区ごとに大きなばらつきがある。数時間全くつながらない時は、住んでいる所、働いている所などの保健所に連絡してダメなら近隣の保健所に頼むこともあるかもしれません。
4.重症で、救急車レベルならば原因が何であれ、開業医では診きれないので救急隊に相談。
5.開業医に受診できるレベルであれば、自宅待機になることが多いです。
6.その時には重症化の目安となる厚労省が4/28に発表した13症状を確認。肺の酸素化が低下して予備能がないので、労作時の呼吸困難感が重要なサインです。
7.解熱しない、もしくは症状が消失しない場合は遠慮なく保健所にもう一度電話して下さい。
8.PCR検査は区によってキャパシティが異なることを知っておく。
9.保健所から、連絡がありPCR検査を受ける場所を指定され、電話でやり取りすることになります。
10.いつ入院になるか解らないので、携帯持参、家族や職場の連絡を確認しておく必要があります。


(今までの新型コロナウイルスの感染の拡がりと、今後の見立て)
1.最初は、武漢・中国からの感染だったが、その後3月に欧米から帰国した人が、夜の接待などで拡散させていました。現在は、高齢者の介護施設や院内感染、家族内感染にシフトしています。
2.外出自粛により、感染拡大は抑えられてくと思いますが、現在重症患者が相当数いるので死亡者は増えていくと思われます。
3.ウイルスの感染力と毒性は、当初より強くなっている印象を受けますが、感染を制御させたことにより、弱毒化も期待できないわけではありません。
4.今後、6月、7月は感染者の減少が予想されます。第3波、第4波が来ますが、その時にウイルスが強毒化しないかがカギとなります。
5.ですので、海外との人の行き来は制限されたままでしょう。
6.PCR検査も抗体検査も感度が低く、感度に関してはCTの方が優れています。どの程度の感染者がいるかを評価するのには慎重である必要があります。
7.既存の治療薬候補がありますが、現時点では決定打とまではいえず、1-2年はコロナとの共存が必要と予想されます。
8.オリンピックは縮小・限定して行うか、中止・延期になるかの判断になるでしょう。
9.しかし、必ず終わりは来ます。

※2020年5月6日時点の医師横山啓太郎個人の意見です。