緊急事態宣言の延長発表直前に新型コロナウイルス感染拡大について考える

本日、緊急事態宣言の延長が発表されますが、それに先立って専門家委員会が開かれています。
医療と経済のバランスを基にどの様な決定であっても批判を受けることになるでしょう?
いくつかの問題に対して医療者としての解釈を加えていきます。
かなり医療者よりの視点なので、「チョッと」と思われる方もいるかと思いますが、ご批判を覚悟で一つの視点として書くことにします。


1.何故、日本だけ感染者数と致死率が低いか?
要因は2つあります。
1つ目は皆保険制度により収入によらず、全ての国民が医療施設へアクセスできるという点です。
新型コロナウィルス感染症に限らず、インフルエンザでも米国に比べて日本では致死率が10分の1程度になります。
そして都市部、地方に限らず、同程度の医療が受けることが出来ます。

もう一つは4月15日のブログでも書きましたが、全国の入院施設のある病院では粗CTを保有しており、肺炎で死亡される患者さんの殆どすべてにCTが施行されることです。

PCRの感度が70%に対してCTは90%とも言われ、新型コロナウィルス感染重症者に関しては、現状の感染者数であれば、日本の方が確実に実数を把握出来るというシステムを持っていたからです。

クラスター対策も功を奏し、このことに関しては日本に世界に誇るべき事柄だといって良いでしょう。

 
2.PCR検査の実態
PCR数が増加しないことが、国や都の政策で批判されています。
これだけ長い間、このことが争点になっていて公表されている検査数が増えないにはそれなりの理由があります。
PCR検査センターは医師会の医師が当番制で行うことになっています。

日本の医療は良心によって成り立っているので、検査に参加する医師の報酬は殆どありませんし、何しろ自分のクリニックを閉じて担当するのでその分の収入はゼロになります。
医師が感染し、死亡した時の保障もハッキリ提示されていないこともあります。

これは、米国と全く異なります。
米国では医療者が新型コロナの医療施設に行くことは戦争に出向く兵士と同じと捉えられています。
軍人が危険地域に行く時の報酬のように看護師に1日20万円程度の給与が払われることもあるそうです。

それでも日本の医師は手を挙げます。
けれどもそうスピードは海外に比べ遅くなることは否めません。

また、PCR検査が何を示すのかを知る必要があります。
現在PCR検査には公的な実施(コチラのみが公表されています)と民間や大学の実施があります。
これらの総和が我が国のPCR検査数になります。

しかし、公的なPCR検査(民間の保険適用分を含む)は疑いが強い人がPCR検査センターで検査していて、民間の保険適用以外の分は、大学病院の院内感染を避ける目的で入院する前の疑い患者さんとPCR陰性によって退院可能になる患者さんの検査が混在しています。
従って、両者を合計しても国民がどの程度感染しているかがわかりません。

やみくもにPCR検査を増やすことが実態把握に繋がりません。
手に入らないことと手に入らないものが正しく将来を示すこととは別問題です。

 
3.緊急事態宣言の根拠となるPCR検査数
5月1日の専門家委員会の発表をみると緊急事態宣言の根拠として、公的なPCR検査新規陽性患者数を用いていました。
それをもって全国よりも東京の方が感染者減少のペースが速いとの説明でした。
しかし、5月1日と5月2日の東京都新規感染者数は160名を超えて、5月3日も91名と4月末よりも感染者数が急増しています。
西浦先生は多くの係数を使用して今後の流行の推移を計算していると思います。
しかし、これは1カ月後の天気を気象衛星もない状況で当てなくてはいけない状況になっている印象を持ちます。

記者会見でもワイドショーでも「国民が血を流すにはその数字的な根拠を示すべき」との風潮がありますが、少なくてもPCR検査からは解らないと思われます。
現在、抗体検査で感染患者を推定することが世界で行われています。
それによるとPCRを積極的に測定している米国でもPCR測定陽性患者の50倍程度の患者がいる可能性が議論されています。

また、この抗体検査自体の精度も問題視されています。
不確かな情報をどの程度不確かかを判断する時間と経験がないと思われます。
数式の結果を公の場で責めるのは酷な感じがします。


4.何故、医療現場が逼迫しているか?
新規患者数が減っているのに医療現場が逼迫しているかというと、重症例は長くベッドを占有するからです。
日本の致死率は欧米の5分の1程度です、従って欧米では亡くなる命を日本では救っています。
その分人工呼吸器は足りなくなります。
新規感染患者数が退院者数を下回ることが必要ですが、それは実現できていません。


以上、専門家委員会には十分な情報を集める体制は出来ていませんが、既存の医療体制が整っていたために奇跡的という程の低い致死率を維持しています。
PCR検査数は十分ではありませんが、それでも他国よりに比べ素晴らしい成績を残しています。
国民は頑張っていますし、成果は上がっています。
医療現場は逼迫しているので、もうしばらく頑張って頂ければと思います。

根拠となる数字はきっと信頼できるものは出てきて無いような気がしますが、それは他国も同じです。
しかし、感染爆発を抑え込んだようにソーシャルディスタンスを続ければ、私は後1カ月で光が見えると信じています。
なぜならば、国策が異なる国々において3カ月程度で結果が出ているからです。

※2020年5月4日時点の医師横山啓太郎個人の意見です。