サーベイランスとしてのPCR検査の価値

新型コロナウィルス感染症対策として、コロナ疑いの人向けにもっと容易にPCR検査をできるようにするべきだという主張は多くの研究者の中にもあります。
私も感染拡大が起こった今は、初期のクラスター対策に加えてPCR検査が必要と思っています。
理由はPCR検査数を増やすことで感染の実態を把握することができるからです。
そのために、私は無症状の人も含めてのPCR検査が必要だと考えています。

測定数が多いとされる米国でも韓国でも症状を有する患者さんを中心に測定しているので新型コロナウィルス感染症が実際に社会の中でどの程度広がっているかは解りませんが、特定の地域の住民を症状の有無にかかわらずPCR検査を行うことで、陽性率や重症化率および致死率が明らかになります。
極端な話、国民全体の殆どが無症状のまま、感染しているとすれば、感染はこれ以上拡大しないからです。

例えば東京で10000人程度の市民を測定して、50人程度陽性の患者が出れば、実際には1000万人の東京の人口で考えると5万人程度の感染者がいると推計でき、現在の報告患者数の10倍強の感染者がいると把握できます。

さらに、50人の陽性の患者の中で、どのくらいの人が重症になるかを評価すれば、ウィルスの怖さが正確に解ります。

ニューヨークにあるコロンビア大学のDesmond Sutton, M.D.は4月15日にThe New England Journal of Medicineで、小規模ながら同様の検討を行い、報告しています。
出産のためコロンビア大学メディカルセンター入院した215人に、症状の有無にかかわらず、全PCR検査施行しました。
検査の結果、発熱を認めた4人全員が陽性で、症状がなかった210人のうち29人が陽性と判定と診断されたといいます。
つまり、陽性患者は29+4の33名(検査実施人数の15.8%:ドイツのオランダとの国境に近いガンゲルトの町での抗体検査からも14%がすでに抗体を持っている、即ち感染したことが明らかになっているようです。)ですが、そのうち88%にあたる29名が無症状ということになります。

ニューヨークの人口817万をこれに当てはめると推定で129万人が感染しているということになり、この時期にこの地域の感染者数として報告されている19万人の6倍以上ということになります。
不顕性感染の拡大は恐ろしいですが、既に多くの人が感染しているとすれば、致死率は1%を割り込むことになります。

このように数値に基づいた正確な状況把握をすることは重要ですので、日本でも更にPCRの数を増やし、正確なサーベイランスの実施が必要だと考えています。
 
※2020年4月17日時点の医師横山啓太郎個人の意見です。