生活習慣病と新型コロナウィルス感染症の関係

高齢者、糖尿病、高血圧で新型コロナウィルス感染症が重症化するという報告があります。
武漢の北京協和医院重症医学科主任の杜斌医師が1月に武漢で死亡した170人のうち半数近くが高血圧であることを報告して、WHOも高血圧を重症化のリスク因子としてあげています。
また、イタリアの死亡者の中で75%の患者が高血圧であるとも報告されています。
 
一方糖尿病、高血圧の罹患率は年齢と共に増加するので、高血圧や糖尿病が単に年齢によって増えるので、糖尿病、高血圧の病態と新型コロナウィルス感染症が重症化とは関連ないという主張もあります。
年齢別の新型コロナ患者の致死率は(JAMA.2020.2648より)40代から徐々に致死率が高くなり、50代で1.3%、60代で3.6%、70代で8%、80歳以上では14.8%にも及ぶと報告されています。

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これに対して、糖尿病の人は1000万人と推計され、
男性は50代で12.6%、60代で21.8%、70歳以上で23.2%、
女性は50代で6.1%、60代で12.0%、70歳以上で16.8%と年齢と共に増加しています。

そして、高血圧の人は4,300 万人と推計され,60 歳 以上の者が 63%を占めています.
しかし、高血圧は加齢の要因を超えて、新型コロナウィルス感染症重症化に寄与するという考え方もあります。

では何故、高血圧だと新型コロナウィルス感染症が重症するのでしょうか?
以前からコロナウィルスは、宿主のアンジオテン変換酵素2(ACE2)受容体を介して侵入しているとの情報が報告されていました(Li, W. Nature 426, 450–454 (2003)。
新型コロナウイルスSARS-CoV-2)も肺胞上皮細胞に発現しているアンジオテンシン変換酵ACE2受容体を介して侵入するとされています。
 
そして、血圧を上げたり下げたりする、レニン-アンギオテンシン系と呼ばれる体内のシステムとコロナウィルスとの関連が議論されています。
このレニン-アンギオテンシン系を調整し血圧を下げる作用を持つのが、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)、アンジオテンシン受容体拮抗薬 (ARB)と呼ばれる薬剤で、ガイドラインでも降圧剤の第一選択薬として推奨されています。

これらの薬剤を内服している人ではACE2の発現が体内で増加することから重症化しやすいのではないかという仮説が発表されました(Lancet Respir Med. 2020 Mar 11. pii: S2213-2600(20)30116-8.)。
 
しかし、その後議論を尽くした結果、欧州高血圧学会(European Society of Hypertension; ESH)、国際高血圧学会(International Society of Hypertension; ISH)、欧州心臓病学会(European Society of Cardiology; ESC)が 新型コロナ感染のためにこれらの降圧剤を中止することを示唆する臨床的または科学的証拠がないとしています。

私は以前から老化と生活習慣病(糖尿病、高血圧など)は外界からの負荷を処理できないことによって引き起こされると考えています。
食事による糖の負荷を処理できないのが糖尿病であり、高血圧の一部の病態は食塩を処理できないことが原因となっています。
外界からの糖や食塩を処理できないこととコロナウィルスに弱いことに何らかの関係があるのでしょうか?

新型コロナウイルスの主たる病巣は肺です。
肺胞の細胞にコロナウィルスが感染し、そこに免疫担当細胞が病巣に向かい対処します。
そもそも肺の毛細血管が十分保たれて、免疫担当細胞が病巣に向かえることによって、人はウィルスと戦うことが出来ます。
その毛細血管密度が高齢者では低下します。
年齢を重ねると脳心臓、腎臓、網膜など全ての臓器で毛細血管密度が低下するのです。
これは肺も皮膚も筋肉も同じで、年を取って皺が増えることや声がかすれることなどの共通経路です。
 
これらはいわゆる血のめぐりが悪くなることが原因で起きます。
そして、この毛細血管密度の低下と高血圧や糖尿病が関連しているということが明らかになっています(Alfons J.H.M. Houben J Am Soc Nephrol 28, 2017.)。

f:id:ishindenshinishindenshin:20200408113838p:plainでは次に高血圧と毛細血管の関連を説明しましょう。
動脈→毛細血管→静脈の順に血液が流れるが、毛細血管の密度や流れが悪ければ、血液は動脈から毛細血管にスムーズに流れ込めなくなり、血圧が上昇します。
冬になると毛細血管の流れが悪くなるが、高齢者では夏に比べて冬の血圧が高いことが特徴です(Iwahori T, et al. BMJ Open 2018;8:e017351. )。

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また、毛細血管密度が低下していると糖を処理する細胞への血流が低下し、当の処理能力が落ちることが考えられます。
さらに、血圧が高いことや血糖が高いことが毛細血管機能障害を惹起することも報告されています。
従って、糖尿病や高血圧の人では実年齢よりも高齢化が進んでいると考えることも出来ます。

新型コロナウィルス感染症の重症化と加齢のことが注目されているが、実はインフルエンザでも年代別死亡率は同様の傾向があります。
我が国の2018年のインフルエンザ死亡者数は3325人で、そのうち75歳以上が2809人で84.5%を占めます。)。
 
新型コロナウィルスに対する抗体産生も年齢に影響すると思いますが、感染の場である肺の炎症即ち、肺炎の重症化は加齢に伴う器質的変化の影響も大きいと考えられます。
新型コロナウィルス感染症と加齢・生活習慣病の毛細血管機能について記述してきましたが、肺の毛細血管機能を最も犯すのは喫煙です。
新型コロナウィルス感染症における喫煙者の死亡率は非喫煙者の其れに比べ2~14倍にも及ぶと言われており、毛細血管機能の改善は免疫力の維持につながりますので禁煙は、皆さんに先ず行ってもらいたいと思います。

また、運動は毛細血管量を保つのに有効であることが明らかになっています。
自律神経機能を保つことは毛細血管機能の改善に繋がり、良好な睡眠をとることも感染重症化の回避に有効かもしれません。
長期化する可能性が高い中で、後ろ向きにならず、良好な生活習慣を保つマインドを持つことが、新型コロナウィルス感染症の重症化を防ぐものと思われます。

※2020年4月8日時点の医師横山啓太郎個人の意見です。