第7の習慣:刃を砥ぐ~4つの側面の進化~

このブログは、7つの習慣生活習慣病診療でどのように用いたら良いかの私の考えを紹介するものです。もし、医療者ではい方は医療者を自分の健康に目を向ける立場(自分の健康を俯瞰して見る立場)、患者さんを自分の健康に対して目を向けたいけれど仕事などで時間に追われているもう一人の自分(普段の自分)と考えてみてください。医療者のマニュアルを医療者以外の方がお読みになるのも良いのではないでしょうか?ただ、医療者のマニュアルなので「患者さんに気づかせる」など上から目線に見える記述はご勘弁ください。

第7の習慣:刃を砥ぐ~4つの側面の進化~

「習慣として身につけ意識せずともできる」状態になるように働きかける

第7の習慣の「刃を砥ぐ4つの側面の進化」とは、成果を生み出す能力を高めるために費やす時間を日常生活のなかで作ることを意味します。第7の習慣は、「人間を形成する4つの側面(肉体、精神、知性、社会・情緒)すべてを日頃から鍛え、バランスを考えて磨いていくこと」と説明しています1)

さらに、成果を上げたいと思ってする努力自体が「習慣として身について意識せずともできる」ようになるまで、いわば『健康的な依存症』の域に達するまで、自分から主体的に実践することが大切です1)

つまり、第7の習慣は、患者さんが健康の維持・向上に役立つことを「習慣として身につけて意識せずともできる」ように、患者さんが主体的に取り組むことであり、また患者さんがそうした状態になるように医療者が働きかけること、といえるでしょう。

4つの側面すべての「刃を砥ぐ」ことが大切

第7の習慣でいう、「人間を形成する4つの側面」は、生活習慣病の患者さんに行動変容を促すうえでも重要な要素です。

「肉体的側面の刃を砥ぐ」とは、「自分の肉体に効果的に気を配り、大切にすること」です2)。患者さんの行動変容では、「健康を維持・向上するために最も必要なものは何か」という意識を高めることです。また「精神的側面の刃を砥ぐ」とは、患者さんが主体的に行動する意志を高めることです。「知的側面の刃を砥ぐ」とは、患者さんが健康を維持・向上させることの意義を学ぶことであり、それによって健康管理を日常生活のなかで優先することの大切さを理解することです。

そして「社会・情緒的側面の刃を砥ぐ」とは、患者さんと医療者の間に信頼関係に基づいたWin-Winの関係を築き、その関係を高めていくことです。

行動変容を促すうえで重要な4つの要素(4つの刃)

  • 肉体的側面の刃を砥ぐ
  • 精神的側面の刃を砥ぐ
  • 知的側面の刃を砥ぐ
  • 社会・情緒的側面の刃を砥ぐ

 

重要なことは、これら4つの刃すべてを砥ぐことです。どれか1つでも疎かにしたら他の3つの側面に必ず悪影響が及びます3)。一方で、「4つの側面は密接な相関関係にあるから、どれか1つの側面の刃を砥げば、他の側面によい影響を与える。肉体の健康は精神の健康に影響し、精神の強さは社会・情緒的な強さに影響する」と言います4)

また、『7つの習慣』を実践していくことによって4つの側面のシナジーが創り出されます。4つの側面のどれか1つの刃を砥ぐと、『7つの習慣』のうち少なくとも1つを実践する能力が高まります。習慣には順番があるとはいえ、どれか1つの習慣が改善されると、シナジー的に残り6つの習慣を実践する力も高まっていくのであるとも言われています。5)

 

行動変容は、螺旋階段を上るように進む

7つの習慣は、まず第1の習慣から身につけていく必要があります。身につけた習慣が次の習慣を身につけるうえで土台となるからです。

 

7つの習慣

第1の習慣

主体的である

第2の習慣

終わりを思い描くことから始める

第3の習慣

最優先事項を優先する

第4の習慣

Win-Winを考える

第5の習慣

まず理解に徹し、そして理解される

第6の習慣

シナジーを創り出す

第7の習慣

刃を砥ぐ

 

第1から第7までの習慣を一とおり身につけたら終わりということではありません。第7の習慣を身につけることで他の習慣を実践する力が高まっていきます。そのため、7つの習慣を一通り身につけたら再び第1の習慣に戻り各習慣のレベルを上げるよう努力を続けることが大切です。

人間は、学び、決意し、実行することを繰り返すことで成長します。この成長の過程をコヴィーは「成長の螺旋階段」と呼んでいます。螺旋階段を上るように、7つの習慣もレベルアップさせていきます。

生活習慣病の患者さんの行動変容も、成長の螺旋階段を上るように進んでいきます。患者さんは学び、決意し、実行することで行動を変容させていくため、医療者はそれらを支援します。

大切なことは、学び、決意し、実行する、その順番を理解し、その段階に応じた支援を行うことです。患者さんは、いくら外部から促されたとしても、自身が行動変容は必要だと決意しなければそれに向けた努力はしないでしょう。患者が決意する前に達成した行動変容はレベルが低いものであり、生活習慣病のリスクは完全にはなくなっていないかもしれません。

医療者と患者さんがともに目標を作成し、達成したらより高い目標を一緒に設定して、それに向けて努力していく必要があります。

ここまで述べてきた「7つの習慣」は、患者さんが行動変容を行ううえで役立ちます。そのため、医療者は患者さんが7つの習慣を身につけることができるように支援することが大切です。同時に、医療者もこの習慣を身につけて4つの側面の刃を砥ぐことで、患者指導のスキルを向上させることができるでしょう。

最後に、患者さんの行動変容のために有用な「7つの習慣」は、実は医療者としての行動変容のために有用であることがお分かりになったと思います。

医療者として、主体性をもって、「7つの習慣」を身につけていきましょう。

医療者でない方も、あなたにとっての最も身近な医療者になることができるのではないでしょうか?

12月12日時点の医師横山啓太郎個人の意見です。

 

文献

  • ティーブン・R・コヴィー, 完訳 7つの習慣30周年記念版. 東京, FCEパブリッシング キングベアー出版, 2020年, p.426.
  • ティーブン・R・コヴィー, 前掲書: p.427.
  • ティーブン・R・コヴィー, 前掲書: p.448.
  • ティーブン・R・コヴィー, 前掲書: p.449-450.
  • ティーブン・R・コヴィー, 前掲書: p.450.