第1の習慣:主体性を発揮する

このブログは、7つの習慣生活習慣病診療でどのように用いたら良いかの私の考えを紹介するものです。もし、医療者ではい方は医療者を自分の健康に目を向ける立場(自分の健康を俯瞰して見る立場)、患者さんを自分の健康に対して目を向けたいけれど仕事などで時間に追われているもう一人の自分(普段の自分)と考えてみてください。医療者のマニュアルを医療者以外の方がお読みになるのも良いのではないでしょうか?ただ、医療者のマニュアルなので「患者さんに気づかせる」など上から目線に見える記述はご勘弁ください。

 

第1の習慣:主体性を発揮する

生活習慣病のリスクを、自分のこととしてとらえる

ティーブン・R・コヴィーが提唱する「7つの習慣」では、身につけるべき第1の習慣として「主体的である」ことを挙げています。これは「主体性を発揮する」ことと言い換えることができるでしょう。

生活習慣病は初期症状がほとんどないため、自分が病気であることを自覚していない患者さんもいます。また、生活習慣病という診断そのものを認めようとしない患者さんもいます。

そのなかには、根拠もなく「自分は健康」だと考える人もいるでしょう。また、病気であると認めると食事や飲酒を制限されるなどしてそれまでの日常生活が送れなくなるので認めたくないという人もいるでしょう。

これ以外にも、健康診断で異常を指摘されないように診断の前だけ食生活に気をつける人や、血圧が高いと「そんなはずはない」と何度も測定し直す人もいます。

このように、自分の状態をごまかして、病気であることを意識しないようにしている患者さんは少なくないと思われます。こうした行動の背景には、「人間は現状が崩れることを避ける」という特性が存在します。

また、減量できなかったり、血圧や血糖値が下がらなかったりすると、医療者に「すみません」と謝る患者さんがいます。その背後には、「医者にダイエットさせられている」「私の領域に医療者が入らないでほしい」といった心理が存在します。病気を他人事のようにとらえ、自身の健康に対して主体性を発揮できていない状況です。

患者さんは、心血管イベントの発症のリスクとなる過食や運動不足、過度の飲酒などの生活習慣を「自分ごと」としてとらえ、主体的に改善に取り組む必要があります。

 

 

主体的な人の選択とは

『7つの習慣』では、「人間の本質を支える基本的な原則として、刺激と反応の間には選択の自由がある」と述べられています1)。刺激が反応を直接引き出すのではなく、「どのように反応するか」は、自覚、想像、良心、意志に基づき自分で選択することができるということです。これは動物にはなく人間だけが備える能力です。そして「自覚」は「自分自身を客観的に見つめる能力」、「想像」は「現実を超えた状況を頭のなかに生み出す能力」、「良心」「心の奥底で善悪を区別し、自分の行動を導く原則を意識し、自分の考えと行動がその原則と一致しているかどうかを判断する能力」、そして「意志」は「他のさまざまな影響に縛られずに、自覚に基づいて行動する能力」と定義づけています2)

また、「選択の自由」における刺激に対する反応かの観点からは、人は2つのタイプに大きく分けられます。周りの物理的・社会的な環境に左右される「反応的な人」と、自分の価値観に基づいて行動する「主体的な人」の2つのタイプです。そして、「反応的な人」は「自分をコントロールする力を他者に与えてしまって」いる人で、「主体的な人」は「深く考えて選択し、自分の内面にある価値観で自分をコントロールできる」人だと言い換えられます。3)

検査値の異常や医療者の言動は、患者さんにとって「刺激」となります。

刺激にどう反応するか(「生活習慣を改善するために努力する」か、それとも「検査前だけ食事に気をつけるか」)は「選択の自由」で、どちらの反応もその人の価値観に基づいています。

「主体的な人」は、自分自身を客観的に見つめ、生活習慣病に伴う合併症の発症を想像します。そしてどう予防するかを考え、「健康が大切」という原則と自分の考えや行動とが一致しているかを判断し、他からのさまざまな影響を受けずに自覚に基づいて行動しようとするはずです。

一方、「反応的な人」は、病気を自ら治そうとはせず、医療者のコントロールに任せてしまいます。そして、もし状態が改善しなければ、それを医療者が行う治療のせいにしがちです。

しかし、病気の進行に伴う心血管疾患の発症といった不利益を被るのは、結局は本人です。「選択の自由」があるからこそ、主体的に判断・行動しなければならないのです。主体的判断・行動ができれば、生活習慣病のリスクを自分のうちにある問題としてとらえることができます。それが行動変容の最初の一歩となります。

病気に対して患者さんが主体性を発揮できるように、医療者はさまざまな方法で働きかける必要があります。例えば、患者さんの生活習慣のなかにリスクが存在することに気づいてもらうために、患者さんの生活習慣について質問する方法が挙げられます。

たとえば、「なぜ食べすぎるか?」という原因に気がついていない患者さんがいらっしゃいます。「お腹が空くから食べている」のであれば、食事開始から10分も経てば空腹感はなくなっていることが多いと思います。「寂しいから食べ過ぎる」「楽しいから食べ過ぎる。」など原因は様々です。やりとりのなかで、リスクの存在を患者さんと一緒に考えていくことが大切です。説得するというよりも、「気づきを与える。」というスタンスが良いと思います。行なっている行為”How”より、理由”Why”に目を向けてみましょう。

そもそも、食事を7時、12時、20時ぐらいに食べる習慣も不思議です。好奇心を持って健康計画を立て直してみましょう。

 

 

■臨床に役立てる

<事例>

【対象】生活習慣病の患者さん

【目標】生活習慣のなかに生活習慣病のリスクが存在していることを気づかせる。

【具体的方法】

相手の視点に立つ:生活習慣について質問する。

対処すべき問題点:生活習慣病のリスクを意識していない。

対処方法のアドバイス:生活習慣の中に生活習慣病のリスクがないかを患者さんと一緒に考える。

 

文献

  • ティーブン・R・コヴィー, 完訳 7つの習慣 30周年記念版. 東京, FCEパブリッシング キングベアー出版, 2020年, p79.
  • ティーブン・R・コヴィー, 前掲書: p.79-80.
  • ティーブン・R・コヴィー, 前掲書: p.82.

 

10月30日時点の医師横山啓太郎個人の意見です。