第6の習慣:相違点を重視して、相乗効果を発揮する

このブログは、7つの習慣生活習慣病診療でどのように用いたら良いかの私の考えを紹介するものです。もし、医療者ではい方は医療者を自分の健康に目を向ける立場(自分の健康を俯瞰して見る立場)、患者さんを自分の健康に対して目を向けたいけれど仕事などで時間に追われているもう一人の自分(普段の自分)と考えてみてください。医療者のマニュアルを医療者以外の方がお読みになるのも良いのではないでしょうか?ただ、医療者のマニュアルなので「患者さんに気づかせる」など上から目線に見える記述はご勘弁ください。

第6の習慣:相違点を重視して、相乗効果を発揮する

患者さんの主体性を引き出すには、患者さんの個性を尊重することが大切

生活習慣病を改善するには、患者さんの主体的な取り組みが大切です。そのためには、患者さんが行動変容の必要性を理解するだけでなく、納得して受け入れる必要があります。実行可能な行動変容のためのプランも必要です。医療者からの指示・提案がどんなに効果的なものであっても、患者さんが受け入れることができず、実行可能なものでなければ、主体的な取り組みは望めないでしょう。

患者さんに行動変容を促すには、患者さんの性格や生活パターンなどを考慮した指導が必要です。個性を考慮しない画一的な指導では、患者さんは行動変容を「他人事」のようにとらえて積極的に取り組まないでしょう。

7つの習慣では、「人間はひとりひとり、知的、感情的、心理的にも違っている。そして違いを尊重できるようになるためには、誰もが世の中をあるがままに見ているのではなく、『自分のあるがまま』を見ているのだということに気づかなければならない」と述べています1)

ただ個性を考慮するとはいっても、妥協的なものであってはなりません。妥協した計画では行動変容の実現は難しいでしょう。医療者・患者さん双方が納得するものでなければなりません。そのため、医療者と患者さんとが十分に話し合い、実行性のある計画を作成する必要があります。

同じ船に乗る船員が力を合わせずバラバラに漕いでいても船は進まず疲れるだけです。患者さん自身の意志で健康マネジメントを行えば、医療者は少し手伝うだけで大きく前進します。

Win‐Winの精神を発揮して本気で相手を理解しようとすれば、よい解決策が見つかる

患者さんと医療者が、互いに納得できる行動変容の計画を立てるときに役立つのが、第4の習慣「Win‐Winを考える」と、第5の習慣「まず理解に徹し、そして理解される」です。

7つの習慣』では、「話し合いを続けて、お互いが納得できる解決策を見つけ出す。それは最初に出していたそれぞれの案よりもよい解決策になるはずだ。妥協ではなく、2人とも満足する解決策になる」と述べています2)。 こうしたWin‐Winの関係から生まれる効果をシナジー(相乗効果)といいます。

さらに「どんなに困難な試練に直面しても、人間だけに授けられた4つの能力(自覚・想像・良心・意志)、Win-Winの精神、共感による傾聴のスキル、これらを総動員すれば、最高のシナジーを創り出すことができる。そうすると、奇跡としかいいようのない結果に到達できる。それまで考えてもみなかった新しい道が拓けるのである」と言われています。3)

こうしたシナジーは強い信頼関係のなかから生まれ、高いレベルのコミュニケーションを可能にし、それによって協力関係が強まります。

高いレベルのコミュニケーションによるシナジー効果は、行動変容がなかなか進まないときに特に効果を発揮するでしょう。成長と変化を妨げるネガティブな力に対抗するときにこそ、シナジーが特に強力になります4)

また、患者さんの行動変容がなかなか進まないときは、自分の見方を振り返ってみることが大切です。「Win-Winの精神を発揮し、本気で相手を理解しようとすれば、当事者全員にとってよりよい解決策が見つかるはずです5)

患者さんが行動変容の計画をなかなか受け入れない場合や、患者さんが計画に取り組んでも行動変容が進まない場合には、患者さんの意見や行動の背後にある事情を理解するよう努め、その事情を考慮して、医療者も患者さんも納得できる創造的な計画を話し合うとよいでしょう6)。信頼関係が構築され、医療者と患者さんの間にWin-Winの関係が築かれていれば、医療者・患者さん双方が納得できる計画を見つけ出せるでしょう。

 

■臨床に役立てる

<事例>

【対象】生活習慣病の患者さん

【目標】日常生活に運動を取り入れる。

【具体的方法】

相手の視点に立つ:患者さんの性格や行動パターンを確認する。

対処すべき問題点:運動をしようと思っても忙しくてなかなか時間が取れない(患者の主張)。

対処方法のアドバイス:「短い時間でもよいので、まずは自宅でできる運動から始めてみませんか」「簡単な筋トレなら自宅でもできるかもしれません」など、実施可能な運動について患者さんと一緒に考える。

目標を下げて、成功体験を積んでもらうことが大切。人によって朝型の人もいれば夜型の人もいる。

失敗した時には、自分のせいにせず、やり方のせいにすることがポイント。

 

12月06日時点の医師横山啓太郎個人の意見です。

文献

  • ティーブン・R・コヴィー, 完訳 7つの習慣30周年記念版. 東京, FCEパブリッシング キングベアー出版, 2020年, p.407.
  • ティーブン・R・コヴィー, 前掲書: p.401.
  • ティーブン・R・コヴィー, 前掲書: p.382.
  • ティーブン・R・コヴィー, 前掲書: p.411.
  • ティーブン・R・コヴィー, 前掲書: p.418.
  • ティーブン・R・コヴィー, 前掲書: p.419.