具体化から抽象化、そして具体化へ

小さな集落で暮らしていた紀元前5世紀の頃は、集落ごとに神話が信じられていました。しかし、集落がまとまっていくと「星が神様のお告げだ。」という考え方と「星は神様のことを照らす灯りだ。」という考え方など沢山あることを初めて人々は知り、世界の共通の真理を求めるようになりました。

目の前のことだけでなく普遍的な真実を求める企ては具体化から抽象化への作業と言えるでしょう。ギリシャ哲学から現在まで続く考え方です。

具体化から抽象化の作業の効率を劇的に上げたのが科学です。科学的真理は多くの人を納得させるものです。

医学もこの潮流の中にいます。「目の前の患者さんだけでなく、多くの患者さんに当てはまる真理は何だろう?」というのは医学研究者が目指してきたことです。

 ところが、「自分はタバコを吸っていても肺癌にならない。」という自分事の主張をする患者さんと医師は対立するようになってきます。

「タバコが肺癌のリスクを上げる。」というのは科学的真理ですが、「タバコを吸っていても肺癌にならない人がいる。」のも事実です。

健康診断でも「其々の人を平均値と比べるだけで良いのか?」というのは多くの人が持っている疑問だと思います。

 

現代はAIの発達により、この問題を乗り切れるかもしれません。「タバコを吸っていても肺癌のリスクがほとんど上がらない人」を見出す医療を私たちは手に入れられるかもしれません。AIは抽象化されていたものを具体化して貴方だけの最適化された医療を提供する可能性があるのです。これは、今までの科学の流れを全く変えることを意味しています。

 

※2021年3月14日時点の医師横山啓太郎個人の意見です。