第5の習慣:まず理解に徹し、そして理解される

このブログは、7つの習慣生活習慣病診療でどのように用いたら良いかの私の考えを紹介するものです。もし、医療者ではい方は医療者を自分の健康に目を向ける立場(自分の健康を俯瞰して見る立場)、患者さんを自分の健康に対して目を向けたいけれど仕事などで時間に追われているもう一人の自分(普段の自分)と考えてみてください。医療者のマニュアルを医療者以外の方がお読みになるのも良いのではないでしょうか?ただ、医療者のマニュアルなので「患者さんに気づかせる」など上から目線に見える記述はご勘弁ください。

第5の習慣:まず理解に徹し、そして理解される

 患者さんの身になって、相手の話を聴くことが大切

自分の言い分・指示を理解してほしいならば、まずは患者さんのことを理解しなくてはなりません。このことを、医療者として理解しておく必要があります。

営業職で接待が多い糖尿病患者さんに「お酒は控えてください」と指導しても実行は難しいでしょう。それより、朝や昼の食事の摂取カロリーを減らし運動を取り入れるよう指導するほうが、実行性があるのではないでしょうか。実行性のある指導をするには、患者さんの仕事内容や日常生活をよく把握しておく必要があります。

相手のことを理解することは、よい人間関係を築くうえでの基本です。相手を理解するのに大切なのは会話です。しかし、時間をかけて会話しても相手を理解できるとは限りません。会話にもスキルがあります。

7つの習慣』では自分の言いたいことを相手に伝えるだけの会話を、「会話しているようで実は独り言を言っているだけなのである。だから、相手の内面で起きていることを理解できずに終わってしまう」としています1)。相手を理解したければ、神経を集中して相手の話を聴くことが大切です。

そして、それ以上に大切なことは「共感による傾聴」です。私たちは得てして、自分の過去の経験、いわば『自叙伝』を相手の話に重ね合わせてしまいます。2)。自分の視点をしばし忘れて相手の視点で話を聴くことで相手の目で物事を眺めることができ、その気持ちを理解できるでしょう。「共感して聴くには、耳だけではなく、もっと大切なのは、目と心も使うことである」7つの習慣の著者コヴィーは述べています3)

人の記憶は、耳からより、目から入ったり、話すことや書くことで定着するものです。例えば、学校の授業でノートも取らずに聞いているだけでは、授業内容は記憶できないと思います。

患者さんの身になって話を聴くことで、行動変容の突破口が開かれる

人が本当に傷つき、深い痛みを抱いているとき、心から理解したいという純粋な気持ちで聴いてやれば、驚くほどすぐに相手は心を開く。その人だって胸のなかにあることを話したいのである」。コヴィーは『7つの習慣』の中でこのように述べています4)

患者さんの身になって話を聴き、信頼関係を築くことができれば、患者さんは日常生活だけでなく、自身が抱えている問題(満たされていない欲求)についても医療者に話してくれるかもしれません。コヴィーは、「人の動機になるのは、この満たされていない欲求だけ」と言います5)。抱えている問題が健康に関することであればそれを突破口に行動変容を促すことができ、患者さんも助言を「自分のこと」として受け止めるでしょう。

アドバイスを行う段階に入ってもコミュニケーションに気を配ることが大切です。患者さんが論理的に反応している間は、その心には行動変容をしなければならないという余裕が生まれていて、医療者の助言を自分のこととして受け入れることが可能でしょう。

しかし患者さんは、自身が改善したいと思っていても改善できない事柄や自身の内面の問題に話が移ったときなどには、感情的に反発することがあるかもしれません。相手が「『感情的な反応』を見せたら、共感して聴く姿勢に戻ることが大切です6)

患者さんを理解することで適切な指導ができ、効果を期待することができます。理解していなければ適切な指導はできないため、行動変容は進まず何度も指導しなければならなくなるかもしれません。患者さんの身になって話を聴くことで、実際には大きな時間の節約につながるのです。

 

理解に徹することで、創造的な解決策に通じる扉が開かれる

この第5の習慣を意識することが、第4の習慣で述べたが「Win-Win」に至るプロセスの第一歩に繋がります。7)

第5の習慣は、提案を実行しても目標を達成できない場合に別の新たな提案を考える際にも役立つでしょう。7つの習慣では、お互いに本当に深く理解し合えたとき、創造的な解決策、第3の案に通じる扉が開かれる」と述べられています。9)問題が生じた場合には、再び患者さんの身になって患者さんの話を聴くことが大切でしょう。

医療者でない方は、ご自分の気持ちに目を向けることが大切です。

 

 

■臨床に役立てる

<事例>

【対象】営業職で接待が多い糖尿病患者さん

【目標】生活指導(節酒指導)

【具体的方法】

相手の視点に立つ:お酒を飲んでいる状況を確認する。

対処すべき問題点:お酒は控えたいが、仕事柄難しい。

対処方法のアドバイス:「お酒は控えてください」という指導ではなく、「お酒を飲む時に10回中何回ぐらい、血糖が上がることを気にするかを記録して下さい」とお願いする。制限した方が良いというのではなく、接待の時の患者さんの食行動に気づきを与えることが、ポイントとなる。

 

11月30日時点の医師横山啓太郎個人の意見です。

 

文献

  • ティーブン・R・コヴィー, 完訳 7つの習慣30周年記念版. 東京, FCEパブリッシング キングベアー出版, 2020年, p.344.
  • ティーブン・R・コヴィー, 前掲書: p.353.
  • ティーブン・R・コヴィー, 前掲書: p.346.
  • ティーブン・R・コヴィー, 前掲書: p.365.
  • ティーブン・R・コヴィー, 前掲書: p.347.
  • ティーブン・R・コヴィー, 前掲書: p.364.
  • ティーブン・R・コヴィー, 前掲書: p.369.
  • ティーブン・R・コヴィー, 前掲書: p.374.
  • ティーブン・R・コヴィー, 前掲書: p.378.