新型コロナウィルス感染症に対する我が国の対策のこれまでとこれから

新型コロナウィルス感染症は、人の交流を制限すれば、感染が収束します。
ウィルスは人を介して感染を広げていくので、感染力が高いウイルスでも感染した人が他の人に接触しなければ、感染は広がりません。
これは感染症対策の真理でありますが、日本では法的に厳格な人の交流の制限が不可能なことが感染拡大を防ぐ足枷になると考えます。

今までの日本の取り組みを振り返ると、新型コロナウィルス感染症の感染が始まった中国と隣接し、4月の習主席の来日やオリンピックの開催など、政治的な課題があり、水際対策の初期対応は遅れたと言えます。
しかしながら、日本は、他国に比べ死亡者数が極めて少なく、国民が政府のやり方を批判してはいますが、結果だけ見ると現時点では上手くいっていると考えることが可能です。

そして、ご存知のように日本は他国に比べPCR検査数が極めて少ないですが、PCR検査の特異度は高いものの、感度60-70%と低いものです。
そのため、PCR陰性でも新型コロナウィルス感染症に罹患していないとははっきりと判断できないため、感染を広げないためには、疑いのある人に家にいてもらうことが一番です。
疑いがあり、軽症な人に家にいてもらうことが担保できれば、武漢からの航空便での帰国者やクルーズ船の感染者等の時の対応同様、PCR施行は必ずしも必要ではありません。
また、PCR検査で患者が医療機関に殺到すれば、医療機関クラスターとなり、医療崩壊につながってしまうという恐れもあります。

日本が初期の段階で新型コロナウィルス感染症を抑え込めたのは、2つの要因が大きいと考えています。

1つ目は容易なCTへのアクセスと、医師の診断力の高さです。
一般的に重症肺炎の患者さんにCTを施行しますが、胸部CTの特異度はPCRに比べ高くありませんが、感度はPCRに比べ高いです。
重症肺炎で入院した時CTを撮像し、CT所見が新型コロナウィルス感染症を疑う所見であれば他の疾患と鑑別し、PCR検査を施行して、確定診断に持ち込んでいくことになります。
日本ではCT検査が比較的容易に出来る病院が多く、その所見よって新型コロナウィルス感染症を疑うことが出来るという医師の診断力が高いことが、重症例の命を守ることと爆発的な院内感染を抑制していると考えられます。

もう一つは、クラスター対策です。
どのような環境や状況で感染が拡大するかを明確にした専門家委員会の功績は大きいと言えます。
ライブハウス、屋形船、卓球場など密閉した空間で大きな呼吸をするという共通性は、エアロゾル感染の可能性を示したし、そのような施設に向けて、要請を行ったことは、適切であったと考えています。

以上が今までのコロナ感染拡大に対する日本の現状に対する私の解釈ですが、現在はフェーズが変わっています。

新型コロナウィルス感染症は必ずしも重症は人からうつりやすいのではなく、むしろ症状が軽く、活動性が高い現役世代が感染拡大を起こしています。
具体的には小・中学校の一斉休校を解除する方向性が安倍総理より示され、3月18日からの3連休で多くの人が街に繰り出したことも現在起きている感染拡大の要因であると考えています。

結果、これからの日本は感染者数が急激に増え、クラスター対策だけでは感染の拡大を食い止められないと考えています。
そのため、感染者が多い地区を選択的に人的な交流を抑制することにシフトし、PCR検査の拡充により、広い範囲のサーベイランスが必要となります。
また、法的な就労制限を出来ない日本において人の交流を制限するためにもPCR検査が重要だと改めて考えています。
前述のようにPCR検査は感度が低いので、国民が思っているようにPCR陰性だから感染していないと断定すること出来ませんが感染者を自宅や宿泊施設に隔離し、感染の全体像を把握するにはPCR検査が有用です。
その結果、感染症拡大の実態をファクトとして示すことで国民の行動変容を促すことができるはずです。

そして、医療崩壊を起さず、死亡者、重症者を増やさないためには、軽症者は自宅や宿泊施設での管理を確立することが急務です。
現在、発熱外来でのPCR検査体制が計画されているが、そのことを医師会の医師に担当させるのは容易ではないと思われます。
自分が開業している施設を閉じ、PCR検査に出向いた後も、いつから自分のクリニックを再開できるか不明な状況では、人的確保が難しいと思われる。
専門ではないので的外れかも知れませんが、感染症になれた自衛隊の隊員等の動員も必要なタイミングが来ると考えています。

※2020年4月15日時点の医師横山啓太郎個人の意見です。