だから医者はやめられない。

私は現在慈恵医大晴海トリトンクリニックという施設の責任者として働いていますが、元々、私の専門は腎臓病学で、長年数多くの透析患者さんを診てきました。

過去を振り返ると、ICUで腎不全になった患者さんを救命するために何日も家に帰れないことがありましたし、HIV患者さんやサリン事件の重症患者さんにたいしても無我夢中で治療に当たってきました。

しかし歳をとると体力も持ちませんし、管理職としての仕事も多いので、若い頃のような前線で必死に働くということばかりでなくなります。

最近も晴海は銀座から近く新型コロナウィルス感染症を疑う患者さんもいらっしゃるので、正直感染することを恐れてしまう自分がいます。
その一方、ICU透析室で一所懸命に働く仲間をみると、自分の不甲斐なさにガッカリすることもあります。

本日、数年間お会いしていなかった松本に住んでらっしゃる透析患者さんからお菓子に添えて手作りのマスクが十数個送られてきました。
私は彼女が生死をさまよいながら毅然とされており、その潔さに敬服したことを思い出しました。

私は送られてきたマスクを見て、10年前に時間を戻された感覚になり、また、突然送られてきた贈り物への驚きと、勇気に近い感情が湧き出ました。
その時、自然と「だから医者はやめられないな。」と言葉が出てきました。

この素敵な出来事を糧に、明日からまた気持ちを奮い立たせて、頑張っていこうと思います。

※20205月7日時点の医師横山啓太郎個人の意見です。